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ゼフィルスと呼ばれる樹林性シジミチョウについては、かつてここにも書いた。小型ながら美しい種が多く、棲息する樹林からあまり出ることがないために、一般の人の目に触れるチャンスも少ないので、蝶の世界に入ったばかりの人が必ず虜になってしまう、一種の魔力を持つ蝶たちである。そのなかでもミドリシジミ類は独特の金属光沢のある翅を持つ、ゼフィルスの代名詞のようなグループである。 いうまでもなく僕も、小学生のころ夢中になり、彼らの姿を求めて県内の低山地帯を歩き回ったものである。おかげで県内に産する代表的な種はほぼ集めることができたのだが、当時からすでに半世紀近い時間が経ち、かつて産地と謳われていた場所も、開発の影響で今は見る影もなくなってしまったところが多い。 蝶の分布を決定する最大の要因は、食草あるいは食樹の分布である。山地性の蝶の多くは、その食草そのものが山地に自生しているために彼ら自身も山地性となっているのだ。ミドリシジミ類の場合も、多くはブナ科の植物を食樹としており、それらが主に山地で自生しているために、その多くが山地性なのである。 しかし、そんななかでミドリシジミ(日本に13種類いるミドリシジミ類の中で、単に「ミドリシジミ」という標準和名を持つ種)だけは、ブナ科ではなくカバノキ科のハンノキを食樹としており、ハンノキのあるところならたとえ平地であっても、条件さえ合えば多産する傾向があるといわれている。 |
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←は都内の某公園だが、池の中央部が浮き島のようになっており、うっそうとしたハンノキ林になっている。これだけのハンノキがあれば当然ミドリシジミもいそうなものだが、約二年にわたって撮影を試みたものの、結局ただの一頭も発見できずに終ってしまった。 なお、ここで撮影したといわれるミドリシジミの写真はウェブ上にいくつか公開されており、また、公園の公式資料にも、少数ながらミドリシジミの発生は確認されている、と書かれている。 実は、ハンノキは沼地や湿地においてはごくありふれた木で、かつて水田の脇などに植えられたり、また河川敷の緑地として植林されたものが、現在ちょっとした森林を形成したりしている。こうしたところに発生したミドリシジミを、県の蝶として埼玉県が保護しているのは有名だ。 |
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↑の公園ほどの規模ではないが、わが郷里の沼のまわりにも、小さなハンノキ林が存在する。↓の、幅10メートル、奥行き50メートルくらいのささやかな林だが、なにしろミドリシジミの食樹が自生しているのだから、彼らが発生している可能性もある。そろそろ発生時期である6月初旬から、僕は毎日カメラ片手にこの林に通った。なにしろ自宅から歩いて30分ほどの場所である。散歩がてら足を運ぶには、ちょうどいい距離だ。 しかし、いくら捜しても肝心のミドリシジミは発見できず、仕方なく僕は林の回りを飛ぶ蝶やトンボの写真を撮ってすごした。 |
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状況が突然変わったのは、通い始めて一ヶ月以上も経った7月も下旬に入るころである。 林の内部はなかなか濃密な植物相で(→)しかも足もとは湿地であり、下手なところに踏み込むとスニーカーがずぶずぶ沈んでいってしまう。 それに加えて林の中は薄暗く、ストロボを使わないとシャッター速度が1秒ほどもかかってしまうという悪条件で、本来明るいところで生活する蝶は、こうした樹林内部より道沿いや林の開けた部分にいるだろう、と勝手に思い込んだ僕は、ほぼ一ヶ月にわたって林の周辺部ばかりを捜していたのだ。 そんな時、林の中をゆったりと飛ぶ大きなゴマダラチョウ(ほとんどオオムラサキかと思えるような大きさだった)を発見した僕は、なんとか撮影しようと思って、それまで入ったことのない林の奥に足を踏み入れた。 |
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その大きなゴマダラチョウは、結局のところ撮影可能な高さまで降りて来てはくれず、やがて視界の外に飛んでいってしまった。林の内部は思ったほどずぶずぶではなく、足場に注意すればなんとか奥まで進んでいけそうだったので、ときおり遭遇するキイロスズメバチやオオスズメバチのご機嫌を損ねないよう注意しながら、僕は奥を目指した。 そんなとき、まったく出し抜けに頭上から一頭の小さな蝶が舞い降り、足元の雑草の葉に止まった。突然のことだったので一瞬正体を判断しかねたのだが、よくよく見るとそれは間違いなく40年ぶりに見るミドリシジミであった。それが↓の写真の上段左の個体である。飛び方は思ったより緩慢で、チョンチョンと飛び跳ねるような感じはヒメウラナミジャノメなど、小型のジャノメチョウ類に似ていた。降りてきた個体は♀で、残念ながら後翅を大きく欠損しており、発生してかなりの時間が経っていると思われる。この日は撮影できなかったものの、もう一頭♂と思われる個体も目撃しており、僕はここでミドリシジミが発生していることを確信した。 それからほぼ一週間にわたって、僕は今シーズン生き残りのミドリシジミたちを写真に収めた。残念ながら発生時期を一ヶ月も過ぎての撮影なので、新鮮な個体はなく、いずれも修羅場をくぐり抜けてきたことを示す傷跡だらけの蝶たちだったが、地上には捕食性のトカゲやクモなどがひしめき、空中には天敵であるさまざまなトンボ類が飛び交う地獄のような環境で、よくここまで生き延びてくれたものである。そうした彼らに敬意を表して、撮影したすべてのミドリシジミをここに掲載した。 来年こそは、羽化したての初々しい姿を、そしてもちろん、名前の由来にもなっている、美しい緑の鱗粉に彩られた翅表を撮影したいものである。 (2008.7.28 記) |
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