炎の日

 いまから20年近く前、寝転がってテレビを見ていた僕はあまりの事態に凍り付いた。スペースシャトル2号機チャレンジャーが発射後まもなく大爆発を起こし、こなごなに砕け散ってしまったのだ。しかし番組は何ごともなかったかのように進行し、次の話題に移ってしまった。今、僕が見たのは幻だったのか、と思いはじめたころ、番組は中断され、切り替わった画面はケープカナベラル沖合いに落下する無数の破片を写し出していた。それからの騒ぎは、みなさんも御存じの通りである。

 その時のことを嫌でも思い出さざるを得ない事態が起きてしまった。日本時間の昨日('03年2月1日)午後11時頃、帰還へ向けて大気圏に突入していたスペースシャトル1号機コロンビアが、高度63.000メートル付近で爆発し、完全に破壊されたのである。まだ事故が起きて3時間ほどなので、詳しいことはよく判らないが、すでに地上においていくつかの破片も発見されているようだし、おそらく乗り組んでいた飛行士達も絶望と思われる。一昨年の同時多発テロ以来の悲劇にアメリカが見舞われたのは確かだろう。

 スペースシャトルの就役当時、いちばん心配されたのは、じつは今回のような帰還時におけるトラブルであった。熱の問題は当時から最重要項目であり、最初の打ち上げ当時も、数枚から数十枚のタイルが剥がれ、無事に「窓」を抜けられるかどうか心配されたものだ。しかしその心配も杞憂に終わり、コロンビアは今回の事故まで通算28回の飛行をこなしてきた。

 まだこの段階で原因をうんぬんするのは時期尚早だが、それでもいくつかの原因をあえてあげれば、やはり機体の老朽化が一番に考えられる。なにしろコロンビアはスペースシャトル1号機であるから、すでに20年以上ものあいだ宇宙と地上とを往復してきたわけだ。加速度、振動、気圧変化など、一般の航空機より遥かに過酷な条件のもとに運用される機体なので、綿密な検査でも発見できない微細な疲労が進んでいた可能性がある。

 また、今回の打ち上げの際、分離した燃料タンクの一部が主翼に当たり、損傷を与えていたとも聞く。もしこのことで、翼の空力的なバランスが崩れたら、再突入時の姿勢制御に重大なトラブルが生じ、本来の突入角度を維持できなかった可能性もある。ただ、姿勢の変化が原因なら、カタストロフが突然に訪れることもないだろう。異常な振動などがクルーにより報告されていたはずである。しかしNASAによると、通信途絶直前まで、クルーとの通信では異常はなかったという (その後のニュースで、損傷のあった可能性のある左主翼の温度センサーからのデータが通信途絶前7分から送られてこなくなり、その後、左主脚のタイヤ圧が急激に減少したという。これが事実なら、損傷は予想外に大きく耐熱タイルを傷つけ、その結果翼の構造部にまで熱が侵入した可能性も考えられる。マッハ18という極超音速で飛行中に突然片翼が失われたら、おそらく構造強度を上回るバフェットにみまわれ、瞬時に空中分解することもあり得るだろう)

 テロの可能性も完全には否定できないが、もし何かあるとしたらもっと地上に近いところにいた時だろうし、ミッション終了まぎわというのは考えづらい。やはりここは事故と見るのが妥当だと思う。

 今回の事故で、スペースシャトルは3機になってしまった。前回の事故のあと、NASAには急遽代替機への予算がつけられ、それはのちに5号機エンデバーとして就役した。今回、イラクとの戦争を目前にしてそれほど巨額な予算をつける余裕がアメリカにあるのか・・・。前回の事故の後、スペースシャトル計画が再開するのに3年弱の期間がかかった。今回の事故の場合、機体の破片すべてを回収するのはまず不可能だろうし(かなりの部分が燃え尽きてしまう)原因究明には相当の時間がかかるものと思われる。それまでの間、アメリカの宇宙開発計画は全面的に停止することになり、国際宇宙ステーション計画にも相当の遅れが出るのは免れないだろう。

 映画の世界では、今頃すでに人類は木星に至り、巨大なモノリスに遭遇していたはずなのだが、現実には未だに、70年代の技術で作られた原始的な宇宙船で事故ったりしている。本来なら現在のスペースシャトルの後継機となるはずだったX-33ベンチャースターも、技術的問題が解決できず結局中止になっているだけに、今後もアメリカの宇宙開発はスペースシャトルに頼らざるを得ない。全く何も生産しない戦争に巨費を投じるゆとりがあるなら、こうしたことにこそ技術力を投入すべきなのだが、どうも政治家は戦争に役立つことにしか予算を使いたがらないらしい。もちろんスペースシャトルとて軍事的な意義が大きいのは認めるが、それだけの存在ではなかったことは、これまでの成果を見れば判る通りだ。

 前回の事故のあと、当時のレーガン大統領は、「宇宙開発は未だに危険を伴う冒険なのだ」と言っていたが、その本質は今でも変わっていなかったのだ。

 合掌('03.02.02 記)

関連ページ

スタンス
困ったものだ
違和感
大人になるということ
みんなと同じでなくちゃイヤ!
スタンスPart-2
宗教観と内政干渉
悪夢のシナリオ
続・悪夢のシナリオ
殲滅のシナリオ
スタンスPart-3
究極の選択
僕という宇宙
迷子になりたい
正義の濫用
9月11日
史上最大の不良債権
史上最悪の不良債権
アメリカの平和
ナンセンス・ウォーズ
トム・クランシー的世界
奇妙な戦争
ある世界観
最近思ったこと
ちょっとおかしいよ
コドモ噺二題
右と左と民族主義
海の向こうに帝国が生まれる
中華人民国家社会主義帝国
はだかの王様
衝突する文明
日々雑感
熱湯よ現象
マスコミは宝?
日々是好日
レミングの葬列
21世紀の神話
エコノミック・エコロジー
こんにゃく騒動
第四の権力(前編)
第四の権力(後編)
イルカと牛と白鳥と
三大亡国遊戯
全日本湖沼バス堀化計画(`д´)凸
レベル・セブン
反面教師

ホームページへ My-コラム'03にもどる 次のコラムへ