史上最悪の不良債権


 このネタについては先日書いたばかりなのだが、その後の展開が面白すぎるので、再びペンを取らせて、もとい、キーを叩かせて(笑)いただく。

 「あの国」は、アメリカがKEDOからの重油の供給を停止したことに反発して米朝枠組み合意の破棄を宣言し、IAEAの監視カメラと封印を撤去して、「電力供給のために」再び核開発に着手することを言明した。しかし、発電にはまったく必要のない使用済み核燃料を保管してある場所の封印まで撤去するなど、その意図が核兵器開発にあるのは明白である。多くの評論家はこれを、アメリカを交渉の場所へ引き出すためのブラフと見ているが、いったい何度目の「瀬戸際外交」なのだろうか。もうそろそろこの種のブラフは効き目がないと悟ってもよさそうなものだが、将軍さまに学習効果を期待しても無理な話か。

 「あの国」の戦力は、兵器自体が陳腐化しており、米軍の繰り出す最新鋭機にほとんど対応できないばかりか、なによりその兵器を動かすための重油がまったく不足しており、ほぼ行動不能である、ということは前回も書いたとおりだ。いかに兵員の数を誇ろうと、兵器なくしては軍隊は成立しない。その辺のことを見越してアメリカは「イラクと同時にことを構えることは可能である」などといっている。もちろんこちらはブラフではない。在韓、在日航空基地と現在湾岸地域に派遣されていない空母から発進する航空機だけでも、「あの国」の軍隊に壊滅的な打撃を与えることは可能であろう。

 南に脱出した元兵士の証言によると、将軍さまはアメリカの攻撃を本気で想定しており、それに対する対抗策も考えているようだ。それはなんと、日本への上陸作戦なのである。日本海をどうやって渡るのか、といった大問題はあるにせよ(お得意の特殊潜行艇を大量生産するのだろうか)これまで実戦の経験がない自衛隊には、ひょっとしたら強敵になるかも知れない。しかしその場所が問題なのだ。なんと彼らは「山岳地帯が多く、隠れやすい」という理由でまず北海道から攻略するつもりなのである。いうまでもないことだが、かつて旧ソ連軍の上陸を想定されていた北海道には、陸上自衛隊四個師団を始め自衛隊の精鋭部隊が配置され、おそらく日本でもっとも堅い守りを誇る場所なのだ。どう考えてもたいした兵器など持ち込めそうもない「あの国」の侵略軍は、わずかな携帯兵器のみで、90式戦車をはじめとした最新兵器で武装した自衛隊と(しかもアウェイで)戦わなくてはならない!! 日本を舐めきってでもいない限り、とうてい思いつけない作戦である。

 さて、北海道を無事攻略できたら、海峡を渡って東北の各都市を占領しつつ南下し、最終的に首都を占領してしまうというのが彼らの基本的な戦略だ。とても本気とは思えないファナティックなシロモノだが、冗談としか思えない訓練を日常的に行っている軍隊なので、たぶん真剣なのだろう。ゲリラ戦と化学兵器の併用で可能な作戦だとマジに考えているらしい。ほとんどオウム真理教的な発想である。なにしろ将軍さまはブレーンをイエスマンで固めているらしいので、どんなばかばかしい作戦も、彼の口から出たら誰も批判できない。専門家がなんと思おうと、将軍さまの考えた作戦は絶対なのである。

 それよりもう少し現実的なのが、核や化学兵器を搭載したミサイルで自衛隊や米軍基地を攻撃し、前進基地としての使用を不能にする作戦である。おそらく彼らが核開発を急いでいるのは、10年前の湾岸戦争における米航空兵力の威力を見せつけられているからだろう。とにかくこれを叩いておかないと、枕を高くして眠れない、というわけだ。

 化学兵器に関しては、彼らは相当以前から日本に対して使用することを想定した実験をしていたようだ。それが、日本各地で発見されている正体不明のビニール風船である。すでに1.000個以上の風船が回収されているが、現在までのところ毒物などは検出されていないようだ。この種の風船兵器は戦時中に日本も「風船爆弾」の名で使用し(遙かに巨大なものだった)アメリカでは実際に被害も出ている。「あの国」がそれをヒントに開発したのは、想像に難くない。かの国と日本との間はアメリカと日本より遙かに近く、サリンなど化学兵器を仕込んだ風船がもし使用されれば、ある程度の被害をもたらす可能性は否定できない。

 しかし、当たり前の話だが風船の行く先は風任せである。狙った場所を攻撃することなど最初から不可能だし、風船に搭載できる化学兵器の量は、ミサイルなどに比べて桁違いに少ない。水素ガス22.4リットルで浮力はほぼ28グラム程度。もちろん風船自体にも重量があるので、それを差し引かなければならないが、通常使われている風船などでは10リットルあたり2グラムの浮力があると計算する。地下鉄サリン事件で使用された液体サリンの袋を空中に浮かべるには、その100〜200倍の量の水素ガスが必要になる。1.000リットルといえば、ほぼ1メートル四方の立方体の大きさだ。もちろん袋だけ浮かべても意味がないから、散布装置も必要になる。当然その分だけ、サリンの絶対量は減ってしまう。化学兵器であれ生物兵器であれ、ある程度の濃度がなければ効果は発揮できない。地下鉄サリン事件では、確かに威力は絶大だったが、列車内という閉鎖空間でありながら、死亡率はそれほどのものではなかった(被害者約5500人、そのうち死者12人)もちろん純度の問題もあるだろうから、一概には言いきれないが、同程度の量のサリンを空中散布しても、遙かに多い大気に拡散してしまうのだから、風船で運べる程度の量で、致命的な濃度を維持できるかどうかはかなり疑わしい。緒戦の段階で大量の風船兵器を使用すれば、戦略的効果より社会不安をあおる効果が期待できるかもしれないが、結局反撃への意志を固めさせるだけの結果に終わる可能性が高い。

 核ミサイルを航空基地に撃ち込めば、もちろんもっと確実に基地を使用不能にはできる。現在「あの国」が持っている使用済み核燃料から抽出できるプルトニウムで、理論的には50発程度の原子爆弾が製造可能と見る専門家もいる。すでに核実験をすませ、インドに次いで世界7番目(イスラエルも入れれば8番目)の核保有国となったパキスタンが、影で技術協力しているという話もある。たとえ核実験に成功していても、運用できる大きさの核兵器を製造するにはさらに膨大な時間がかかる、というのが今までの定説だったが、すでに兵器を開発している技術者が協力すれば、あるいは予想より遙かに早く小型化に成功するかも知れない。しかし、ここが問題なのだが、前回にも書いたとおり、アメリカの核戦略は基本的にMAD(相互確証破壊)に基づいている、ということだ。平たくいえば、核には核で報復する、ということである。日米安全保障条約の建て前からも、アメリカは本気で報復するだろうし、そうなればまず、将軍さまには生き残る術はない。つまり、将軍さまが確実な死を覚悟しない限り、核ミサイルはブラフの手段としてしか使えない、ということだ。もちろん、彼がビンラディンのようにアメリカの目を逃れて逃走する自信があるなら話は別だが、とうてい実戦向きとは思えないあの体形や、すでに還暦を迎えた年齢から考えてもそれは無理であろう。

 それでも将軍さまが強気なのは、ひとつにはアメリカの戦略のまずさがある。その最たるものが「地位協定」だ。この種の協定はアジアだけではなく、ヨーロッパではドイツなどとも結ばれているが、結果的に犯罪者をかくまう不平等な協定としか受け取られておらず、各地で反米感情を巻き起こしている。アメリカの立場から見れば、途上国の不完全な司法に自国の兵を裁かせたくはない、ということなのだろうが、そういう発想自体が相手を属国扱いしていることの証明ではあるまいか。少なくとも日本や韓国からはそう受け止められており、沖縄での婦女暴行事件や韓国での女子中学生死亡事故など、明らかな対応の誤りである。特に後者は、大統領選に大きな影響を与え、結果として「太陽政策」が継続されることになった。将軍さまは多いに気をよくしたに違いない。

 もう一つの大きな要因は、何より「あの国」の事情が本当にせっぱ詰まってしまった、ということだろう。元はといえば密かに継続していた核兵器開発の事実が明らかになり、渋々それを認めたことで、怒ったアメリカが重油の供給を停止したのだが、その辺の経緯は全くなかったかのようにアメリカを非難し、態度を硬化させている。なぜ協定を無視してまで核開発を続けていたのか定かではないが、おそらく、全面的にアメリカに屈服することに我慢ならなかった将軍さまの指示であろう。それがばれてしまった段階で、拉致事件同様「一部の跳ね上がりがやったことだ」として中止することもできたのだが、さすがに二度三度と同じ手は通用しないと思ったのか、ここで将軍さまは開き直り、核開発を「自衛権だ」と言ってのけた。そもそもKEDOは核兵器開発と引き替えに、核兵器に転用しづらい軽水炉技術を提供しようという考え方で作られた組織である。いまさら自衛権を持ち出すなら、最初から枠組み合意など結ばなければいいのである。

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 アメリカのタイムテーブルでは、来年(2003年)1月、大量破壊兵器の査察が終わった直後に、対イラク開戦に至るスケジュールのようだ。アメリカの立場からいえば、アルカイダとつながりがあり、彼らに大量破壊兵器を提供しかねないイラクは確かに目の上のたんこぶであろう。だが、イラク国民と「あの国」の国民のいずれが不幸かと問われれば、疑いなく「あの国」である、というのも事実だと思う。サダム・フセインと将軍さまの、いずれを排除するのがその国の国民にとって幸せなことなのか、ちょっと考えれば判りそうなものなのだが('02.12.27 記)

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