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ノスタルジア【字幕ワイド版】

アンドレイ・タルコフスキー
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桜の下で思ひ出すこの映画のいとおしさ−−武満徹氏が愛した映画
おすすめ度 ★★★★★

 桜の季節が来る度に、私は、日本に生まれた事を幸福に思ふ。そして、ふと、もし、自分が、日本を離れ、二度と日本に戻れない運命の下、異国でこの桜を想ふとしたら、どんな気持ちだろう?と、想像する事が有る。−−この映画(『ノスタルジア』)を作った時、タルコフスキーは、その様な気持ちだったのではないだろうか?

 この映画は、ソ連で、『ローラーとバイオリン』、『ぼくの村は戦場だった』、『アンドレイ・ルブリョフ』、『惑星ソラリス』、『鏡』、『ストーカー』の6作品を監督し、天才の名を欲しいままにしたロシア(ソ連)の映画監督、アンドレイ・タルコフスキーが、初めて国外(イタリア)で監督した作品である。物語は、祖国(ロシア)を捨て、二度と祖国の土を踏まないと決意したロシア人が、愛人の美しいイタリア人の女性と共に、イタリア中部の教会を訪れるものの、その美しさに触れる事も無く、物思ひにふける所から始まり、そして、そのロシア人の死によって終はる。

 冒頭の、主人公の思ひ出と思はれるロシアの光景に、ロシアの歌と共に、ヴェルディのレクイエムの序奏が重なる場面の美しさは、他に類を見ない物である。−−これほど美しい始まり方をする映画を私は、他に知らない。−−そして、廃墟と成った、作りかけの教会の中で、主人公が犬と共にこちらを向いて座り、そこに雪が降り始める場面の美しさも素晴らしい。そこに出る、dedicato alla memoria di mia madre(母の想い出に捧げる)と言ふタルコフスキーのイタリア語の言葉は感動的である。このラスト・シーンにこめられた祖国(ロシア)への別れの想ひは、余りにも深い。
 日本の作曲家、武満徹氏(1930−1996)は、タルコフスキーの作品を愛した事で知られる。氏は、1986年にタルコフスキーが他界すると、その死を悼んで、この映画と同名の弦楽合奏曲「ノスタルジア」を作曲し、タルコフスキーにその作品を捧げて居る。タルコフスキーが日本を愛した事と共に、記憶されるべき事である。

 この数年、私は、毎春、桜が咲くと、この映画を思ひ出す。自宅の近くの満開の桜の下で、夜、静けさの中で桜を見上げて居ると、この映画の冒頭が、心に浮かぶのである。何故だろう。


(西岡昌紀・内科医/今年の桜を惜しみながら)


概要
タルコフスキー監督が、初めて祖国・ソ連(当時)を離れて撮った一作。モスクワの詩人・アンドレイが、通訳を伴ってイタリアのトスカーナ地方を訪れる。静かな村の湯治場に着いた彼は、そこで「狂人」扱いされているドメニコに興味を抱くが、ドメニコは彼に謎めいた言葉を返すのだった。
ソ連からイタリアに亡命したタルコフスキーが、アンドレイに自らの姿を投影しているのは明らか。アンドレイの「芸術を理解するためには国境をなくせばいい」という台詞に、監督のメッセージが色濃く表れている。湯治場の「水」や「蒸気」、焼身自殺するドメニコの「火」など、タルコフスキー作品に共通するイメージが、とくに象徴的に使われている作品でもあり、荘厳な映像美は、クライマックスの廃墟をはじめとしたイタリアの風景で、いっそう磨きがかかった感がある。(斉藤博昭)

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